L'Appréciation sentimentale 2

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなど好き勝手に書いてます

故・渡辺保史先生の遺作「Designing ours:『自分たち事』をデザインする」がクラウドファンディングで出版される!

CoSTEP(北海道大学科学技術コミュニケーション部門)にて教えを受けた恩師、故・渡辺保史先生の遺稿「Designing ours:『自分たち事』をデザインする」をオンデマンド出版するプロジェクトが立ち上がった。クラウドファンディングサイト MotionGalleryで2月中旬頃まで募集している。

渡辺保史先生は情報デザインというジャンルを日本に紹介したパイオニア的存在で、CoSTEP、函館国際科学祭、2050年委員会、札幌オオドオリ大学など、都市論、コミュニティ論、場づくり、まちづくり、デザイン、メディア、ビジネス論といったあまりにも幅広い領域で、異分野の人とまち、学問をどのように繋げて伝えていくのか、架け橋となる役割と場、話し合いをどのよう構築するかをずっと考えてこられた。渡辺先生の思想は、私にも絶大な影響を与えた。自分がCoSTEPや札幌オオドオリ大学にコミットして活動してきたのも、渡辺先生の影響を抜きには考えられない。『ぼく、学級会で議長になった』の第1章は、先生が主催された数々のワークショップに参加したことで得た知見を盛り込んで執筆したものである。

先生のエッセンスは、せんだいメディアテークで2002年に行われた「共有のデザインを考える」というタイトルで行われたトークセッションに現れている。現在でもウェブサイトからPDFで記録がダウンロードが可能だ。「働き方改革」という言葉が空虚に響きわたる2018年初頭の今でも、「共有のデザインを考える/スタジオ・トークセッション記録」は驚くほどの鮮度を保っている。いや、時代は渡辺先生が16年前に考えておられた思想とほど遠い、と言わざるをえない。

先生の出世作とも言える『情報デザイン入門』平凡社新書)は、情報デザインという概念を広めた記念碑的入門書であり、必読本である。最近、私の周りでも渡辺先生と生前面識がなくとも、著作から大きな影響を受けたという人がかなり多くいることが判明するなど、その影響力は今なお衰えることはない。渡辺先生の死後、生前に渡辺さんと交流のあった数多くの人たちが集うFBグループができており、先生が連載されたウェブサイトやインタビューのリンクなどが今も時折アップされている。

先生は生前、『情報デザイン入門』の続編を書き進めていると公言していたが、「いつ出るんですか?」と聞いても、「出るよ」と返事はしても明確な出版時期を教えていただくことはなかった。先生が亡くなる一年ほど前、当時札幌の西18丁目駅近くにある3KGのビルに入っていたpippinというカフェ(現在は総菜屋として円山公園駅近くに移転)で先生と打ち合わせをしたとき、先生愛用のマックの画面で目次を見せてもらった。それを見て、まちがいなくこれからの時代に必要となるエッセンスが詰まっている本だと確信し、大いに興奮したのを今でもハッキリと覚えている。いつ出版されるか分からないからこそ、その分、出版がとても待ち遠しかった。

残念ながら続編は未完成のまま、先生はくも膜下出血でこの世を去ってしまった。だが今回、続編となる遺稿が「Designing ours:『自分たち事』をデザインする」として日の目を見ることになったのは、なんとも喜ばしいかぎりだ。もちろん、所々原稿に穴が空いていたり、文脈の欠落などで意味不明な箇所も散見するだろうとは思う。それでも、先生が著作に込めた思いを馳せながら読解していくのは、リアルでもネットでも、世代、ジャンルを問わず分断された世界の架け橋を構築する設計図として、絶大な威力を発揮するだろう。未知の分野を踏破し、世界が抱える問題を「自分たち事」としてシェアして、多くの人と一緒に全く新しい方法で解決するためにどうすればいいのか。本書は単なる机上の知識にとどまらず、一人でも多くの読者が実際に架け橋=コミュニケーターとして実践行動していくためのヒントが満載なのはまちがいない。

値段は2通り、書籍の贈呈が2500円、さらに無料招待イベント付きが3500円。コンビニでも支払うことができる。私も申し込んだ。大いに楽しみ!!
よかったら支援お願いします!!

謹賀新年

あけましておめでとうございます!
2018年です。新しい年です。

今年は最低でも2冊は本を出せるようにしたい。なんて漠然と考えているけど、思考は実現する、とのことなので、何とかカタチにできるようにがんばりたい。そのためにも、知識もスキルも極限まで磨いて、これまで以上に飛躍するためにも、膨大なインプットをこなせるようにしたい。と言っても、理想と現実のギャップがあるので、少しでも理想に近づけるようにひた走っていきたい。変化を恐れず、新しい体験を少しでも多く増やしていきたい。

そして、少しでもみなさまに興味を持っていただけるような情報や知識、面白い本やイベントを少しでも広めていくことができるように、情報発信をマメに心がけたい。

災害、戦争など、いろいろきな臭い情報が飛び交っている世の中だが、少しでも平和な世の中が続くように、そのために微力でも少しでも自分の培ってきた知識と経験を還元して貢献できるように、面白い物語を届けることができるように!

楽しみに待っていてください。


みなさまにとっても、心身共に充実して、心穏やかに過ごすことができる年になりますように(祈)。

挑戦

2017年もそろそろ終わる。思い返すと、自分でもビックリするような大きい変化があり、相変わらず大して変わらないこともあった。一方で、インプットがあまりにも激減してしまったので、来年は本当に大きく盛り返していきたい。本も映画もたくさん吸収して、全国の展覧会にも足を運んで、たくさんたくさんインプットして、アウトプットに結実させていきたい。

そして、『ぼく、学級会で議長になった』紀伊國屋書店札幌本店の2F教育コーナーで発売から一年以上経った今なお平積みされている。今日、久し振りに売り場を訪れてみると12冊平積みされていた。秋の初め頃に見たときは2冊だけになっていたが、どうやらまた入荷してくださったようだ。棚を担当している書店員さんには、本当に頭が下がる思いである。全く無名の、それも一風変わったジャンルの本を、ここまで長期に渡って平積みしてくださることに、感謝である。

amazonでも、『ぼく、学級会で議長になった』が今なお在庫が減っては入荷を安定して繰り返している。そのペースは未だ衰えることがなさそうだ。一時期はamazonの小学生の生活部門で一位にもなった。できる限り多くの人に手にとってもらえれば、作者としてこれほど幸せなことはない。『ぼく、学級会で議長になった』がラジオドラマなど、メディアミックスされるとさらに面白い、なんて思ったりして。

話は変わるが、会期終了直前に国立新博物館で、安藤忠雄展を見てきた。タイトルは「挑戦」。

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展覧会に寄せた安藤忠雄のメッセージが、最初は事務所を開設してから仕事がなく、依頼があっても予算が少なくて苦難の連続であり、建築を職業とすること自体が自分にとっての挑戦だった、みたいな内容だったと思うが、この言葉には大変感銘を受けた。安藤忠雄には遠く及ばないが、自分も次の作品に向けて挑戦を続けていきたい。

今年を遙かに超える作品を目指して、自分も挑戦したい。2018年も!
みなさまにとって2018年が充実して素晴らしい年となりますように!

深海&ブリューゲル&チェーホフ

しばらく更新が滞ってしまった。しかも3ヶ月!
新しい作品執筆のための資料読み(膨大にありすぎてめまいがする!)や来年(2018年)1月に行う予定のイベントの企画、各種読書会などいろいろあった。

その合間を縫っていろいろと各地の展覧会にも出かけてきた。地元の札幌国際芸術祭や、上野の科学博物館の特別展「深海」、国立国際美術館ブリューゲルバベルの塔」展、北海道文学館のアントン・チェーホフの遺産など、いろいろな分野を巡ってきた。

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深海展で展示されていた3.11でできた亀裂を研究する海底探査に驚き、ブリューゲル作「バベルの塔」のあまりの緻密さには驚愕し、チェーホフが19世紀に訪れたというサハリンの歴史について自分のあまりの無知ぶりに呆れ果てた。どれもこれもあまりにも知らないことを思い知った展示であった。新しいことをいろいろ学べるって本当に楽しいね。

バベルの塔が当時の建築技術や生活様式まで描かれいたとは、画集で見るだけだと全く気がつかなかった。現物を解説付きで生で鑑賞すると学びの深さの桁が違うものだと改めて確認。

サハリンなんて北海道と目と鼻にありながらも、旅行や渡航として完全に欠落している島というか、存在を無視しているかのような扱われ方である。観光資源に乏しいというだけでは説明がつかないだろう。それくらい、歴史的にも、地政学的にもあまりにも矛盾した「異国」が稚内のすぐ側にあるのはなんという認識不足だろうか。チェーホフが訪れたときに対応した島民の子孫が、今でも祖先がチェーホフと交流したことを誇りに思っているとの内容のパネルがあり、文豪の存在がいかに大きいのか、その偉大さを感じた。そんなことを感じた次第である。

札幌演劇シーズン イレブンナイン「あっちこっち佐藤さん」

先週のことだが、札幌演劇シーズンの中でもさらにリピート作品となった、イレブンナイン「あっちこっち佐藤さん」を見てきた。かでる2・7のホールでの公演ということで、500席近い席が連日満席。僕が見たのはたまたま空いていた公演だったので、極めてラッキーだった。もはやクォリティ、シナリオ、演出、完成度、どれをとっても名目上北海道を代表する劇作品と言えるといっても過言ではない。


原作は、イギリスの劇作家レイ・クーニーの「Run for Your Wife」。物語の設定を納谷真大が現代の札幌に翻案。37歳のタクシードライバー佐藤は、二人の妻を持つ。札幌市でほぼ対角に位置する二つの家を行き来しながら、二つの家庭を維持する生活を続けている。ところが、佐藤が夜の勤務中、暴漢に襲われた女性のところを通りがかったことがきっかけで、完璧に行き来する生活が破綻する。被害者の女性から逆に犯人の一味だと勘違いされ、警察の事情聴取を受けることになる。誤解は解けるが、帰宅時間が大幅に遅れ、二つの家を行き来する生活のスケジュールがすっかり狂い、さらに事件のことで新聞の取材記者3名が家に押し寄せ、重婚がバレるのを防ぐためにウソにウソを重ねざるを得なくなる。そのウソがどんどん広がって、収拾が付かなくなり、ついには・・・?

シナリオで興味深く感じたのは、完璧なスケジュールをこなす佐藤の生活の破綻をどうやって作るかである。自分のことがバレる最短の方法は、自分の個人情報が公然に曝されることなのだ。そのためには、新聞のようなメディアに自分のことが掲載されるのが手っ取り早いというわけである。そうか、こう来たか!と唸らされた、

ウソを重ねることで、まったく予想も付かない方向に、欺された近所に住む小説家佐藤も、更に嘘がばれないように、演技をしなければならなくなり、ますます傷口が広がっていく。この辺の展開は、あまりにも怒濤のスピードで物語が進んでいき、役者の強烈すぎるパワー、熱量、随所に織り交ぜられたギャグ、お笑いの要素が満載である。しかも登場人物全員の姓が佐藤なので、特に警官二人が似ていたため、どちらの佐藤なのかちょっとだけ混乱するところもあったが、インキン佐藤と刑事志望の佐藤巡査長の違いで、二人の差異がわかるようになっている。

ちなみに、私が見たのは、明逸人&江田由紀浩バージョンだが、納谷真人&藤尾バージョンも見てみたい。ダブルキャストで雰囲気もガラリと変わりそうだ。
だが、このラストはなんだか既視感がある。テレビか何かで見たコント、お笑いでこのオチをどこかで見たことがあるような気がしたのだ。なんのネタで見たのか全く記憶にないが、デジャブを感じたのは確かなのだ。この部分によって、これまでの怒濤の笑劇のテンションがいささかトーンダウンしたのは否めない。それでも、幕が閉じた後の心地よい疲労感はじつに爽快である。

 

劇団どくんご「愛より早くFINAL」札幌公演@円山公園自由広場

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今年も劇団どくんごの季節がやってきた。札幌円山公園で行われる夏の風物詩は、鹿児島に拠点を置いて全国ツアーを縦断している劇団どくんごの公演である。

 

背景となるカーテンが場面が変わる毎に次々に取り替えられて、新しい背景=カーテンが出現する。そうして、役者がまた入れ替わってつぎの場面が開始されるという、その連続がどくんごの演劇をコアを形成している。動詞を使った連想ゲームのような台詞、詩のような味わい深い言葉の数々・・・。どくんごの面白さは、全くうかがい知れない言葉と、その連想、さらには合唱や踊りなど、天衣無縫なきらめきに役者と言葉が輝いているところだろう。

 

今回は「愛より早くFinal」と銘打たれた題で、昨年の「愛より早く」と一部見たことがある場面もいくつか散見された。デジャヴのような何か懐かしい、それでいながら初めて見るような感覚がわき起こって、思議な快感に全身が襲われる。とくに、なぞの力「マカマカ」について語りながら、コンロで熱せられた中華鍋でチャーハンを炒めて皿に盛り、レンゲを添えて最前列の客に手渡すぶっ飛んだ場面は、今年も見ることができた。

ユニークなのは、背景=カーテンが全て取っぱらわれて、ステージの向こうに広がる円山公園をも「ステージ」として舞台を空間として拡張させる演出だ。役者達は円山公園という「ステージ」に飛び出して、大声で台詞を発しながら縦横無尽に駆け回る。この空間の拡張が、どくんごをよりどくんごとして機能させているのだ。

たまたま犬を連れて散歩している人や、ランニングで身体を鍛えているランナー、たまたま買い物帰りの地元住人との接触もあるだろう。決して交わることのない演劇と日常の空間が重なり合う奇跡。このことについてはかつてこのブログでも書いたことがある。どくんごを見た者は誰しもこの演出にやられて、毎年どくんごの演劇を観に行かずにはいられなくなってしまうのである。かくいう私もこの魅力にすっかりとりつかれてしまって、今では例会のメンバーと夏にどくんごの演劇を観に行くのが恒例行事となっているわけで、かれこれもう5年近く続いているわけだ。

 

札幌公演は今日で最後である。これを見ずして札幌の夏は過ごすことはできない。あなたの住んでいる地域にどくんごが来るときは、芝居小屋を訪れてみよう。きっとあなたの感性が激しく揺さぶられるはずだ。

『ぐるりと』島崎町 全く新しい形式の実験小説

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『学校の12の怖い話』の島崎友樹あらため島崎町先生の新刊『ぐるりと』(ロクリン社)が6月下旬に発売された。さっそく私も発売されて書店に並んだ初日に購入することができた。今では品薄で、なかなか入手しにくいようだ。セブンイレブンで取り寄せたという友人もいた。

先日も、ライトノベルの比嘉先生を招いて『ぐるりと』の出版記念イベントが札幌市内のカフェで行われ、とても盛り上がった。会話の巧妙さ、キャラの多さと活躍の場のバランス、テクニカル面の工夫など、二人が小説の執筆に対していかに真摯に打ち込んでいるかが分かるトーク内容で、こちらも大いに刺激を受けた。

『ぐるりと』は、ページをめくると、ページが上下に分かれており、上段が縦書き、下段が逆さまの横書きになって半分が空白となっているのが大きな特徴だ。中には上段と下段の両方文字が埋まっているページがある。こういう形式で書かれた本は初めてだ。横書きの本は通常なら右閉じで、縦書きの本と読む方向が逆である。これを、本をひっくり返すことで一冊の本で縦書きと横書きの両方を味わうことができるという離れ業をやってのけたのが『ぐるりと』である。

最初のページを読み進めていくと、なぜこのような書き方になっているのかが分かる。主人公が図書館にてとある分厚い辞典のような本を発見する。その本が、『ぐるりと』と全く同じ形式で書かれている本なのだ。主人公が本を読み、下段のページを読むべく本を逆さまに「ぐるりと」ひっくり返して読むと、突然世界が変わってしまう。図書館からいつの間にか真っ暗闇に包まれた、しかも怪物がうろついている異世界に飛んでしまうのだ。こうして主人公は本を逆さまにひっくり返しながら、現実と異世界を行き来しながら冒険を繰り広げていく、というわけだ。

ネタバレになるのでこれ以上は書くのはよそう。ぜひ実際に体験して面白さを味わって欲しい。児童書にもかかわらず300ページを超える厚さにビビるかもしれないが、実質半分なので、実際のボリュームはこの半分である。この夏にもってこいの、手に汗握る冒険ファンタジーであり、そしてホラーの要素もふんだんに盛り込まれている。小学生のお子さんを持つ親御さんにもオススメである。