L'Appréciation sentimentale 2

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなど好き勝手に書いてます

『こち亀』 200巻と、さわや書店盛岡駅フェザン店の文庫X

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先週、所用で盛岡に行ってきた際に、駅に入っているさわや書店フェザン店にも立ち寄った。『こち亀』200巻が地元の札幌では物流の関係で発売日に購入できなかったため、ちょうどいい機会だったので、さわや書店で購入することにした。

それにしてもこの本屋で驚いたのは、書店員による、並々ならぬ情熱である。書店の棚作りやオリジナルのポップの数々、これを平積みにするか、という感嘆するような本の配置の数々にめまいがした。駅の書店としてはなかなか広い方で、地元の大作家である宮沢賢治全集(ちくま文庫)を入口すぐに並べているところからわかるように、掘り出しの本や埋もれている名作をこれでもかというくらいにプッシュする姿勢がすごい。とにかく、店員の並々ならぬ情熱が感じられる書店なのである。

出版不況で本が売れないといわれている世の中でも、この店に限ってはそんなのどこ吹く風という感じで、レジの行列が絶えない。岩手出身の漫画家、地下沢中也の作品を並べ、3巻が出そうにない『予言者ピッピ』をブームにして続編を出すべく、この作品が話題にならないのは岩手の恥とまで言ってのけ、作者をwanted扱いで書店に連絡するように呼びかけている。

極めつけは、入口のワゴンに置かれている文庫Xだ。「申し訳ありません。僕はこの本をどう進めたらいいかわかりませんでした。」というメッセージから始まる、文庫担当者による推薦文で埋め尽くされたグレーのカバーによって、著者もタイトルも一切わからない。手がかりは、値段が税込み810円、小説ではないという情報のみで、私が訪れたときはすでに1300冊近くを売り上げている(正確な冊数は忘れたが、冊数がきちんとカウントされてワゴンに表示されている!)。

私もそのただならぬ魅力に引き寄せられ、iPhoneでこの本の情報を検索し(もちろん手がかりはつかめず)、十数分ほど迷ったあげくに、どうしても買わずにはいられないような磁力に絡みとられて、とうとう本をレジに持って行ってしまった。グレーのカバーの上に、さらにさわや書店のカバーが掛けられ、二重にカバーが掛けられた状態で渡された文庫本を店が出るなり、こっそりとタイトルと著者を確認。

なるほど、そうきたか!!!

中身を明かすことは決してやってはいけない。確かに、このタイトルだけでは買うことはなかっと思われる。これはネット書店では決して体験できない偶有性だ。だからこそリアル書店は面白い。更に、文庫Xはニュースでも取り上げられ、全国の書店でも発売されている!

書店員の「推し本」を売る常軌を逸したような熱い想い、そして棚作りの工夫。それが書店を活性化することになり、ひいては読書人口を増やして文化を押し上げることに繋がる。その素晴らしい見本が、盛岡のさわや書店フェザン店にある。これは、とてつもない収穫だ。

なお、『こち亀』200巻に収録されている「部長御乱心の巻」で、盛岡駅前に両さんが出没しているではないか。盛岡駅の書店で買った『こち亀』で両さん盛岡駅を訪れているのも、たまらなく面白い偶然だ。