L'Appréciation sentimentale 2

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなど好き勝手に書いてます

ある古書店主との会話から

久しぶりの更新。
先日名古屋を訪れる機会があったときに、某古書店に立ち寄った。ここに来るのは2回目で、約2年ぶりの来店である。

薄明るい橙色のランプに照らされた、内装と空間センスの良さが感じられるその古書店は、豊富な品揃えや分類、雰囲気など、おそらく東海地方ではトップクラスの古書店だと思っている。春という時期柄、ある老夫婦が引っ越しのため、蔵書を売りに来店されていた。自分の立ち位置からレジはほとんど死角になっていて状況は分からず、聞き耳を立てていたわけではなかった。査定を終えたマスターは「いい本なんですけれどもね」という返事をされていた。どうやら、マスターは、買い取りを拒否したのか、ほとんど値段がつかないような感じだった。主に旦那さんがマスターとやりとりをしており、奥様は付き添いで、店内を見て回っていた。旦那さんは提示された額を受け入れたようだった。
そして、マスターの口から驚くべき衝撃の言葉が出てきた。

「もう今年で店を閉めようと思っているんですよ」


耳を疑った。え!?


「やめるにしても、その後どうするかまだ全然決めてないし、在庫の問題もあるからね」


本を売りに来たお爺さんも「もうみんな本を読まなくなったからね」と、こういう時代だから仕方ない、そんな会話を交わしていた。


来店回数は二回目で、全国を見回しても、これほど凝った空間デザインの雰囲気のいい店はそう多くはない。最初に来店した時点で僕は一発でファンになっただけに、この店がなくなってしまうのは、身を引きちぎられるような衝撃を受けた。
老夫婦は帰った後、店内は自分の後に来店された中年の女性の二人となった。奥の方にある西洋文学の棚をこれから見ようとするときに、マスターから「この後出掛けるので、一旦閉めさせていただきます」と言われた。一番見たかった西洋文学の棚を見ることができない無念さを引きずったまま、購入しようと思った文庫本二冊の会計を慌てて済ませてもらう際、「閉店するんですか?」とマスターに声を掛けて先ほどの真相を聞いてみた。

「今年中に閉店って本当ですか?」
「もう今日明日にでもやめたいと思ってますよ。まだ全然決めてませんけど」
「えー、ショックです・・・」
「だって、必要とされていませんから。毎日やっているとわかるんです」

マスターの口調からは、どんなに説得されても、続けるつもりはもうないと決然とした意思が感じられた。もはや闘いに疲れた戦士ではなく、敗戦を受け入れて、次をどうするか、そういうフェーズに移っているようだった。

一体、教育者は何をやっているのだろうか?本の面白さを伝える工夫を次世代の子供たちにしているのだろうか?読者の購買力が低下している経済状況で、日々の生活に追われて疲労困憊という毎日では、本を手にする気力もない人がほとんどかもしれない。その様な時代に古書店を経営するマスターは、誰よりも本を売ることの困難を痛感しているのだろう。

そんなやりきれない思いが次々と頭をもたげてしまった。
少しでも本を読まれるように、何かできることはないものだろうか?

ここに記したことはオフレコの話で、正式発表ではないため、どこの書店かは記さない。願わくば、次回訪れるときも、この店が存続して、元気な姿でマスターが店番をして欲しい。ウェブサイトで閉店を告げる新着情報が出ないことを願っている。