L'Appréciation sentimentale 2

映画、文学、漫画、芸術、演劇、まちづくり、銭湯、北海道日本ハムファイターズなどに関する感想や考察、イベントなど好き勝手に書いてます

札幌演劇シーズン イレブンナイン「あっちこっち佐藤さん」

先週のことだが、札幌演劇シーズンの中でもさらにリピート作品となった、イレブンナイン「あっちこっち佐藤さん」を見てきた。かでる2・7のホールでの公演ということで、500席近い席が連日満席。僕が見たのはたまたま空いていた公演だったので、極めてラッキーだった。もはやクォリティ、シナリオ、演出、完成度、どれをとっても名目上北海道を代表する劇作品と言えるといっても過言ではない。


原作は、イギリスの劇作家レイ・クーニーの「Run for Your Wife」。物語の設定を納谷真大が現代の札幌に翻案。37歳のタクシードライバー佐藤は、二人の妻を持つ。札幌市でほぼ対角に位置する二つの家を行き来しながら、二つの家庭を維持する生活を続けている。ところが、佐藤が夜の勤務中、暴漢に襲われた女性のところを通りがかったことがきっかけで、完璧に行き来する生活が破綻する。被害者の女性から逆に犯人の一味だと勘違いされ、警察の事情聴取を受けることになる。誤解は解けるが、帰宅時間が大幅に遅れ、二つの家を行き来する生活のスケジュールがすっかり狂い、さらに事件のことで新聞の取材記者3名が家に押し寄せ、重婚がバレるのを防ぐためにウソにウソを重ねざるを得なくなる。そのウソがどんどん広がって、収拾が付かなくなり、ついには・・・?

シナリオで興味深く感じたのは、完璧なスケジュールをこなす佐藤の生活の破綻をどうやって作るかである。自分のことがバレる最短の方法は、自分の個人情報が公然に曝されることなのだ。そのためには、新聞のようなメディアに自分のことが掲載されるのが手っ取り早いというわけである。そうか、こう来たか!と唸らされた、

ウソを重ねることで、まったく予想も付かない方向に、欺された近所に住む小説家佐藤も、更に嘘がばれないように、演技をしなければならなくなり、ますます傷口が広がっていく。この辺の展開は、あまりにも怒濤のスピードで物語が進んでいき、役者の強烈すぎるパワー、熱量、随所に織り交ぜられたギャグ、お笑いの要素が満載である。しかも登場人物全員の姓が佐藤なので、特に警官二人が似ていたため、どちらの佐藤なのかちょっとだけ混乱するところもあったが、インキン佐藤と刑事志望の佐藤巡査長の違いで、二人の差異がわかるようになっている。

ちなみに、私が見たのは、明逸人&江田由紀浩バージョンだが、納谷真人&藤尾バージョンも見てみたい。ダブルキャストで雰囲気もガラリと変わりそうだ。
だが、このラストはなんだか既視感がある。テレビか何かで見たコント、お笑いでこのオチをどこかで見たことがあるような気がしたのだ。なんのネタで見たのか全く記憶にないが、デジャブを感じたのは確かなのだ。この部分によって、これまでの怒濤の笑劇のテンションがいささかトーンダウンしたのは否めない。それでも、幕が閉じた後の心地よい疲労感はじつに爽快である。